身勝手な恋情【完結】
ビルを飛び出してからトボトボと歩く。
威勢よく飛び出したくせに、何かあてがあったわけでもなかった。
セーターを着ているとはいえ風はあまりにも冷たくて、財布も持たない私は、どこかで時間をつぶすことも出来なくて……。
私ったら、なにやってるんだろう……。
とりあえずコンビニでも行こうかな、と身をすくめつつ足を速めたところで――
「ひよさん!」
大きな声で名前を呼ばれた。
「え……?」
一瞬蓮さんかと思ったけれど、そんなはずもなく(そもそもさんづけで呼んだりしないし)
声のしたほうを振り返ると、道路の向こう側に手を振る男性がいて。
目を凝らして、それからハッとした。
「草介さん!」
そう。ノアのマスターの草介さんだったんだ。
あの、以前も見たオレンジのダウンにデニム姿の彼は、周囲を見回した後、車が来ないことを確認してからまっすぐに私に向かって道路を突っ切ってくる。