Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
一四三〇年二月十八日。午前五時三十分。

 ジョーンは元気な男の子たちの産声を聞いて、安堵した。産室に双子の男子の鳴き声が響く。ジョーンの力の入っていた身体が脱力し、泣いている赤ん坊を愛おしく見つめた。

 医師に抱かれた二人の子が、競い合うように泣いていた。

 ジョーンは疲れた身体を横にしたまま、数人のメイドによって身体を綺麗にさせた。血だらけになった下半身を念入りに、拭かせて、新しい下着をつけた。

 一人はしっかりした体つきで、泣き声も大きい。もう一人は小さくて、手足も折れてしまいそうに細かった。泣き声がか細いが、必死に声をあげているのがわかった。

 どちらも目元がケインに似ていた。生まれてきた子を見ているだけで、ジョーンの心は幸せだった。

 医師の腕の中にいた息子たちが、メイドに預けられると桶の中に入っていった。

 初めての男子が、ケインの子で良かったとジョーンは思った。もしかしたら、ケインの子が、王位を継承するかもしれない。

 助産師や医師が、ジョーンに挨拶をすると部屋を退出していった。他にいたメイドたちは使用したタオルや桶を片付けたり、血だらけの赤ん坊たちを桶の中で洗ったりしていた。

 廊下に待機していた乳母が室内に入ってきた。ジョーンに軽く挨拶をすると、綺麗に洗われた双子の男子を抱いて、すぐに退出した。

 メイドたちも片づけが終わると、お辞儀をして部屋を後にした。騒がしかった室内は、一気に静かになった。
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