Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 産室には、ベッドで横になっているジョーンと、寝ずに傍にいてくれたケインだけとなった。

「ウイリアムはどうしたの?」

 ジョーンは横になったまま、椅子に座っていたケインに話しかけた。

「廊下で寝ています。痛みに耐える陛下のお姿を見ていられそうになかったので、廊下に出しました。さっき様子を見に行ったら、座ったまま寝ていました」

 ジョーンは肩を揺らして笑った。

 男性は痛みに弱いと耳にした記憶がある。戦や武術大会で怪我をした騎士たちを見てきたが、痛みに弱い男は多かった。

 ケインが怪我をした場面を見た記憶が、ジョーンにはない。ケインも怪我をしたら、痛みで悲鳴をあげたりするのだろうか。

 ジョーンはベッドから見える窓を眺めた。日の出が近いのだろう。星の輝きが弱くなり、空は白み始めていた。

「陛下、僕との子を産んでくださり、ありがとうございます」

 椅子に座っていたケインが立ち上がると、ベッドの横で膝をついた。ジョーンの手を握って、優しい瞳で見つめてくれた。

(私がケインの子を欲しかったのよ)

 ジョーンは微笑んで、首を横に振った。
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