Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「陛下が無事で良かったです。陣痛で辛そうにしているお姿や、お子が産まれてくるときに大量の血を流したのを見ていて、陛下の御身に何かあったらと、不安でたまりませんでした」

 ケインがジョーンの手を強く握った。よく見ると、ケインの顔色が優れない。まるでケインが子を産んだみたいに、頬がやつれて疲れきっているように見えた。

 ドアがノックされた。ケインの手が離れ、ベッドの脇に立った。ジョーンも手を布団の中にしまった。まだ手にはケインの温もりが残っている。

「ジョーン、聞いたぞ。よくやったな」

 顔いっぱいに笑みを広げたジェイムズが、ドアが開くと、入ってきた。

 ケインがジェイムズに向かってお辞儀をすると、ドアに向かって歩き始めた。

 ジョーンは身体を起き上がらせて、座った。産んだばかりの身体は疲労と後陣痛で、思った通りに動いてくれない。

 枕に寄りかかるように座ると、大股で近づいてくるジェイムズに笑顔を向けた。
< 105 / 266 >

この作品をシェア

pagetop