Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ジョーンは、ジェイムズと手を取り合って音楽に合わせてステップを踏み始めた。青いスカートが左右に揺れると、ジョーンのカールした髪が楽しそうに弾んだ。

 ジョーンはジェイムズから離れると、一人でクルクルと手を上げて回った。

 再び手を取ったとき、ジェイムズの顔が崩れていないのに気づいた。

 不機嫌に口を曲げ、目も細くなっていた。むっとした雰囲気を全身から漂わせ、ただ音楽に合わせて足を動かしているだけだった。

(ジェイムズは、何を怒っているの?)

 ジョーンもジェイムズの表情に合わせるように、笑顔を消した。楽しい気持ちがすっかり失せてしまった。

 ジョーンの足だけが軽快にステップを踏んでいた。

「無警戒すぎる。また命を狙われるぞ!」

 ジェイムズが声を低くして注意をしてきた。

(せっかく楽しく踊っていたのに)

 気分が台無しだ。ジェイムズの一言でジョーンはさらに気が重くなった。

「客人たちの刃物類は調べてあるのでしょう?」

「調べてはある。それでも完璧とは言えない」

 奥歯に物が挟まったような言い方に、ジョーンは首を傾げた。

「余は女って生き物がわからん」

 ジェイムズが小さく呟いた。独り言のつもりだろう。ジョーンの耳にはしっかり届いていた。
< 114 / 266 >

この作品をシェア

pagetop