Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「ウイリアムを連れて挨拶に訪れた日に、貴方が私に言った言葉を覚えているかしら?」

 ジョーンの足は、三本の木に向かって歩いていた。距離的には五十フィートくらいだろうか。あの木に到着するまでには、話を纏めて城に戻る折り返し地点にしたいと決めた。

「忘れるわけありません。我が王妃陛下のためなら」

「なら、今が実行するべき良い時機だと思うのよ」

 大げさな言葉などにジョーンは興味がない。お世辞など今は、必要ない。ケインに気づかれないように、話を纏めて城に戻りたいだけ。

「レティア様でよろしいのでしょうか?」

 ダグラスの声のトーンが低くなった。

「殺そうとした罪は、償ってもらわないといけないわ。ダグラスにできる?」

「お任せください。王妃陛下が満足いく結果を出しましょう」

 ダグラスが足を止めると、胸に手を置いてお辞儀をした。ジョーンは横を向いて笑顔を見せた。

 ジョーンは足を緩めず、木に向かっていた。一度足を止めたダグラスも小走りで、ジョーンの横に並ぶと、歩調を合わせた。三本の木まで、あと十五フィートだった。
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