Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 二ヶ月半前の六月十八日に、あの木に向かって、ジョーンはダグラスと並んで歩いた。

 ケインが近づくのを、ジョーンは嫌がった。あの時にレティアの暗殺を指示したのだ。噂話を聞いただけだと、不機嫌に話すジョーンの声が蘇った。

 ケインの脳裏には、六月のジョーンの姿があった。夕日の中、歩くジョーンの背中が、今こうして自分が歩いている風景と重なり合った。

 ケインは、ジョーンが笑顔でいられるためなら、何でもやり遂げる自信があった。

 暗殺だろうか、何だろうが。汚い仕事だって、ケイン一人でやる覚悟は、とっくにできている。

「単刀直入に話します。王妃陛下に暗殺を指示されましたね?」

 ケインがダグラスの横顔に視線を送った。

 ダグラスもケインの顔を見やると、にやりと笑った。

「陛下の寵愛が、いつまでも貴殿だけに向いているとは限りません。いつかは終わりが来るのでしょうね」

 ダグラスの太い眉が上下に動いた。自信満々な言い方が、ケインの胸を刺激する。唾を飲み込むと、ダグラスの眉を睨んだ。

「僕の質問に答えなさい」

「陛下に忠誠を誓っておりますから。陛下がお望みになることは何でもします」

 白々しい発言に、ケインは鼻を鳴らした。見え透いた嘘は聞きたくない。知りたいのは、事実だけだ。
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