Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「余は心配なのだ。こんなに美しいお前だから。不届きな考えを起こす連中がいるのではないかと」

(私の監視役ってわけね)

 ジョーンは心の中で、溜息をついた。

 ジェイムズの満足そうに微笑む顔が、憎らしく見えた。「ケインと一緒にいたいから、余計な真似はしないで」そう大きな声で叫んでしまえたら、どんなに楽だろうか。

 秘密の関係だから、ジェイムズに悟られないように振舞わないといけない。

 腰に回されていないジェイムズの手を握ると、ジョーンは嬉しく思っている女性を演じた。

「美しいなんてお世辞はよして。来月、パースに行ってしまうから心配してくださったのね。私もジェイムズと離れるのが寂しいわ」

(ジェイムズがいない間もケインと会うのが難しくなりそうだわ)

 ジョーンとジェイムズが手を繋いだまま、ソファに腰を下ろした。

「パースに行く件だが、余もいろいろ考えてみた。実のところ、余もジョーンと離れるのがつらい。できることなら、パースに行くのも止めてしまいたいくらいだ」

(やめないで。パースに行ってきてよ)

 ジョーンは嫌な予感がした。新しい執事とメイドが増えただけで、気が滅入りそうなのに。これ以上、ジェイムズは何をしようと考えているのだろうか。

 ジョーンは不安で、心が締め付けられた。
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