Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「良い案をピットが教えてくれたのだ。パースには、ジョーンも一緒に連れて行くと決めた。それなら、離れなくていいのだ」

 ジョーンの頭の中が一瞬で真っ白になった。

(ジェイムズと一緒に、パースに行きたくないわ)

 ケインとしばらく一緒に過ごせると喜んでいたのに。ジェイムズと一緒にパースに行ったら、ケインと過ごすのが難しくなる。

「ジョーン、どうした?」

 ジェイムズが顔を覗きこんできた。ジョーンは慌てて笑顔を作った。ジェイムズの胸に飛び込むと、作り笑顔をやめた。

「嬉しい提案で、驚いてしまったの」

 ジョーンの背中にジェイムズが撫でた。その手が、ジョーンの足へと移動した。膝を撫で回したあと、太股へとあがってきた。

「ジェイムズ、着替えないと。朝のミサに間に合わなくなるわ」

 ジョーンを抱く気になっているジェイムズから、ジョーンは離れようとした。

「王は遅れない。余を急がせようと、今日は少しばかり鐘が早く鳴るだけだ」

(都合良く解釈しすぎよ)

 ジョーンの抵抗も空しく、ジェイムズが執事たちを部屋から追い出すとソファの上でジョーンを抱いた。

 激しい炎を見つめながら、ジョーンはケインと過ごせなくなるのを悲しく思った。同時に、余計な提案をしたピットと、実行したジェイムズを怨んだ。
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