Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「王妃陛下、お部屋を覚えておられるのですか?」

 ケインが後ろから声を掛けてきた。ジョーンは振り返ると、ケインの顔を睨んだ。

「三階にある廊下を真っ直ぐ行って、右に曲がった……そこら辺の部屋よ」

「左に曲がって三つ目のドアです」

 冷静に答えるケインが、ジョーンには憎らしく感じた。怒りの度合いを足音に変えた。

 ケインの行動一つひとつが気にかかる。ケインに意思がなくても、ちょっとした言動にジョーンの心は大きく振り回されてしまう。

「王妃陛下、お行儀が悪いです。足を痛めますよ」

「私は苛々しているの。散歩も満足にできなければ、変な男に手を握られるし。恋をしているのは私だけで、一回歩いただけで城を覚えているし、何なのよ」

 ケインの後ろにいたエレノアとローラが首を傾げていた。不思議そうな顔をしてジョーンを見ている。

「苛々しているのはわかりました。恋をしているなら、喜ばしいでしょう? 国王陛下と恋がしたいと仰っていた王妃陛下です。良かったですね」

 ケインがジョーンの前に出ると、階段を登り始めた。小さな窓から差し込んでくる光が、石の螺旋階段を明るくしていた。

(恋をしている相手が違うのよ!)

 ジョーンの歩調に合わせて階段を登るケインの背中が、無性に腹立たしかった。

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