Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
―ジョーンSIDE―

一四三七年二月十日。午後二時。

「スコッチを飲みませんか? 歩いて身体も温まってきましたし、少しお腹も減りませんか? ディナーまで時間がまだありますから、休憩しながらどうでしょう?」

 散歩の途中、エレノアが大きな声を出した。ジョーンの後ろに立っている執事やメイドにも聞こえるように、身体を回転させながら発言していた。

 ジョーンは雪の上で足を止めると、エレノアに振り返った。目が会ったエレノアが、笑顔を送ってきた。

 吐く息が白く、エレノアの鼻の頭が寒さで赤くなっていた。

(え? 真冬なのよ。何を考えているの?)

 ジョーンはエレノアが何を考えているのか、見当がつかなかった。

 見渡す限り白一色の、寂しい景色だ。城も雪が積もって、白く儚く見える。

 確かに、今は青空が広がり、寒さもそれほど厳しくない。それでも冬だ。地面には雪が積もっている。

 歩いて身体が温まっているとはいえ、休憩する道具一式を持ってくる準備を待っていたら、また身体が冷えてしまうのではないか。
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