Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「散歩だけだというのに。飲み物など持ってきてないと知っているでしょ」

 キャサリンがゆっくりとした口調でエレノアの顔を見た。

「持っていないなら、持ってくれば良いのです。真っ白な雪景色を見ながら、皆で談笑し合って、飲むスコッチはきっと美味しいはずです」

 エレノアの声が、とても明るく聞こえた。

 キャサリンの大きな身体に隠れていたピットが後方から小さな顔を出した。

 エレノアの顔を捉えると、長い足を動かして、キャサリンより前に出てきた。

「エレノアはいつも身勝手な意見を言うから困る。出発前に私は確認しましたよね? 散歩ですね、と。外は寒く、途中に休憩をいれるほど、遠くには行かないようにしますと言ったのは誰でしたっけ?」

 ピットがエレノアを細い目で睨んで、眉をぴくぴくと動かしていた。

 近づいてきたピットに、エレノアはあさっての方向に顔を動かした。口うるさい男を間近で見たくないのかもしれない。

「そうでしたっけ? あのときは散歩の気分で、今はスコッチを飲みながら、談笑したら楽しいかと思いましたので。口に出したまでです。最終的な決断は王妃陛下がなさいます。私の意見に、そんなに目を吊り上げないでくださいな」

 エレノアがくるっとピットに背を向けた。

 ピットが気分を害したのか、早口でエレノアに向かって過去の身勝手な行為について話始めた。人指し指をぴんと伸ばして、エレノアの鼻の前で動かしていた。
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