Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 脱ぎ捨てた服を蹴るかのように、ロバートがあっさりとキャサリンの身体を蹴り飛ばした。

 ドアのフレームからキャサリンが見えなくなった。ロバートの左後ろにいた男の姿も、フレームアウトする。直後、キャサリンの短い悲鳴が聞こえてきた。

 殺されたのだろう。足にしがみ付かなければ、助かったかもしれないのに。

 ロバートの視線がジェイムズの顔へと移動すると、獲物を捕えた野獣のように瞳が光った。

「ロバート・グレイアムか」

 低い声でジェイムズが、相手の名を確認しながらベッドから降りた。ベッドの脇に立てかけてある剣に右手を伸ばし、身体に引き寄せた。直ちに抜き放つ。

 奥歯を噛み締めたジェイムズから、命の危機を感じたオーラが放たれていた。

 しかし、下半身は何とも情けない格好をしている。勃起したままのペニスが、べっとり冷や汗を掻いて、情けなさに拍車を掛けていた。

 ジョーンは椅子に掛かっている赤いガウンを羽織ると、腰紐を結んだ。

 ジェイムズから目を逸らさずに、ジョーンは枕の中に忍ばせておいた短剣を掴んだ。

 ジョーンはジェイムズがいる反対側に移動すると、右足からベッドを降りた。素足が床につくと、冷たい空気が足を覆った。
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