Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ジョーンは短剣を両手で握り締めたまま、壁と背中を密着させた。

 壁は凍っているのではないか思うほど冷たく、ジョーンは身震いをした。蟹のように横移動しながら、ドアへと歩いていった。

 巻き添えを食って、怪我などする前に、部屋から脱出しておくべきだろう。反面、ジェイムズの死を見届けたいという気持ちも、少なからずジョーンにはあった。

 見届けたい気持ちが、ジョーンの足を室内の隅に、留めさせた。

「お楽しみの最中に失礼しますよ」

 ロバートが鞘から剣を構えて、にやりと笑った。膝を曲げたかと思うと、ジェイムズに斬りかかった。

 右後ろにいたリーゼルも、一緒に斬りかかった。

 ジェイムズは剣をロバートに、鞘をリーゼルに向けて構えた。

 同時に斬りかかってくるロバートとリーゼルの剣を、一度目は受け止めた。受け止めたものの、押し切られてジェイムズの背中は壁に激突した。

 ロバートとリーゼルの剣が離れると、ジェイムズが守りから攻撃に転じてロバートに剣を向けた。
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