Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「何者かに襲われました。私はジェイムズの計らいで、どうにか部屋から逃げ出しましたが、まだ室内にはジェイムズが」

 ジョーンは恐怖で部屋を飛び出してきた女を演じた。ダグラスが演じるなら、ジョーンだって負けずに、急に襲われた王妃を演じてみせる。

「陛下、お怪我はありませんか?」

 ジョーンの左横で足を止めたケインが、呼吸を整えるように深呼吸を一回した。

「私は平気です。でも、ジェイムズが、襲撃者に斬られて」

 ショックで倒れそうになる女のように、ジョーンは少しよろけて見せた。すかさずケインがジョーンの脇に手を入れ、支えてくれた。

 ダグラスの目が吊り上った。奥歯を噛み締めたのか、頬の筋肉が持ち上がる。気合の入ったオーラが、ダグラスの全身を覆った。

 ダグラスが腰についている剣を引き抜くと、後ろで待機している騎士隊に声を掛けた。

「国王陛下のお命を救うのだ。中にまだ、襲撃者がいるはずだ。国王陛下のお命を救い、襲撃者は一人残らず、ひっ掴まえろ」

 騎士隊が叫び声を上げると、ドアを開けた。
< 180 / 266 >

この作品をシェア

pagetop