Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ジョーンは二歩だけ後ろに下がると、毛布の上に置いてあった短剣を手に掴んだ。鞘から抜くと、左手に鞘を掴んだまま、ダグラスに向かって構えた。

 ダグラスは鎖帷子を着ているから、腹や腰は狙えない。ジョーンはダグラスの頭から足先まで素早く眺め、短剣を刺す場所の狙いを定めた。

 ジョーンは走り出した。狙いはダグラスの太股だった。ヘレンを離すのに夢中になっているダグラスの背中に回りこんで、太股の裏側を刺した。膝より少し上辺りだろうか。

 ダグラスの口から痛みを耐える声が漏れた。ジョーンはすぐに短剣を持ったまま、ダグラスから離れた。暖炉の前に立つと、ダグラスへの次の攻撃場所を探した。

 廊下から数人の足音が聞こえた。剣が足に当たる音も。ケインと騎兵が駆けつけてくれたのだろう。

「王妃陛下、ご無事ですか?」

 ケインの大きな声がした。部屋に入ってくる音がするなり、ダグラスが仕切り板に体当たりした。腕には、まだヘレンが執拗に噛み付いている。

 ダグラスの気がケインに向いた隙に、エレノアが積まれている荷物のほうへと歩み寄った。
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