Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
―ジョーンSIDE―

一四二四年五月三日。

 二十歳になったばかりのジョーン・ボーフォートはロンドンを出発して、スコットランドのエディンバラ城に到着した。

 ジョーンはイングランド名門貴族であるボーフォート家の娘である。初代サマセット伯ジョン・ボーフォートの長女であった。ジョーンの曽祖父はイングランド王エドワードⅢ世である。

 従兄はヘンリⅤ世であり、現在のイングランド王であるヘンリⅥ世は、ジョーンの従甥だった。

 ジェイムズⅠ世とスコットランド騎士団が先頭をきって騎乗していた。その後ろからジョーンの乗っている馬車と、イングランドから連れてきたイングランド人の騎士団とメイドが従いて来ていた。

 エディンバラ城へと続く大通りから、領民と各地の騎士が盛大に出迎えてくれた。地響きがするほどの歓声に包まれた。馬車に乗っているジョーンの頭に人々の声と拍手が、がんがん響いていた。

 十八年間、王が不在だった国だ。戻ってきた王に、皆が期待を寄せ、喜んでいるようにジョーンには見えた。

 広い通りは坂道になっていた。坂道を登りきると、大きなエディンバラ城の門が見えた。跳ね橋はすでに下ろされており、そこにも甲冑を着た騎士が騎乗していた。人数にして二百人くらいだろうか。
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