Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「王妃陛下、顔色が優れません。今日はお休みになられたらいかがでしょう」

 ケインが再び近づくと、声を掛けてくれた。ケインの顔がひどく心配していた。

 そっとジョーンの腕に触れるケインの指から、温かい気持ちがジョーンの身体に流れ込んでくるようだ。

 ジョーンは心の中でケインに礼を述べた。

 休むわけにはいかないのだ。ジェイムズに言われた通りに、マードックを連れ出さなくてはいけない。

 頬に力を入れて笑顔を作ると、ケインに見せた。

(平気だから、離れていて。お願い。私はケインに嫌われたくないの)

 ケインには見て欲しくなかった。ジェイムズのためとは言え、殺人の手伝いをする姿を、ジョーンはケインに見せたくなかった。

 ジョーンの騎士であるケインが、ジョーンから離れるなんてあるはずがない。見ないで、従いてこないでと言ったとしても、ケインは絶対に従いてくる。

 真面目で任務に忠実な男だ。イングランドでも、騎士の鏡だと評されていた。

 ジョーンの胸は痛くて苦しかった。

「無理に笑顔を作らなくていいです。国王陛下に何か言われましたか? 夕方、陛下と散歩をなさってから王妃陛下の様子がおかしいですよ」

(ケインは鋭いから、嫌いよ。私のしようとしている事柄を知ったら、きっと嫌われてしまうわね)

 ジョーンは首を横に振った。いち早くジョーンの異変に気付いていくれるのは嬉しいけれど、今は気付かれるのが心苦しかった。

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