Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「マードックを探しているの。どこにいるか知らない?」

 視線を落としていたジョーンは、顔を上げると大広間を見渡した。

 中央にあったテーブルは隅に寄せられ、数十組の男女が手をとってダンスを楽しんでいた。部屋の隅にいる執事やメイドが、テーブルの上にあった食器や装飾品を片付けていた。

 音楽も軽快で、踊っていない人も部屋の隅で思わず足でリズムを刻んでいるのが見えた。

 以前、マードックに近づくなとケインに忠告されている。何か言われるだろうか。

 話してはいけないと、注意されるだろうか。

 ジョーンは隣に立っていたケインの横顔を見つめた。ケインは視線を遠くにして、眼球を動かしていた。

(どうしてケインは、私に何も聞いてこないの?)

 ジョーンのしようとしている行動を理解しているのか。ケインには、夕刻に会話したジェイムズとの内容は耳にしていないと思う。それでも察しの良いケインだ。

 ある程度の予測はしているはず。嫌われてしまっただろうか。呆れられただろうか。ケインがどう思っているのか。不安になった。

 考えるだけで胸が締め付けられて、息苦しくなった。
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