Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「王妃陛下、マードックを見つけました。僕が呼んできます」

 ケインが対角線上にいる群集の中から、マードックを見つけたようだ。

 ジョーンもケインの視線を追って探すと、人と楽しく話をしているマードックの姿が見えた。ケインが人の群れを掻い潜って、マードックのもとへと向かっていった。

 ケインがマードックに近づくと、耳元に話し掛けていた。マードックの視線が彷徨った後、ジョーンのところで止まった。

 マードックが笑顔でジョーンを見てくる。ジョーンも微笑むが、本心から笑うなんて到底できなかった。

 マードックが話していた相手と、会話を打ち切るとケインを先頭にジョーンに近づいてきた。

 ジョーンの心臓が早鐘を打った。

(ジェイムズのところに、マードックを連れていかなければ)

 ジョーンの喉が急速に渇いていく。唾が喉に引っ掛かって、咳をしたくなった。

 必死に唾を何度も飲み込み、ジョーンは咳が出ないように懸命に抑えた。

「私にお話があるようで。嬉しいですよ、王妃陛下」

 ジョーンの前に立つと、マードックが口を開いた。膝をついて頭を下げると、ジョーンの手の甲に口付けをした。

 マードックの手は湿っている。脂ぎっている顔が、厭らしさを増幅させていた。

「ここではちょっと話しにくいわ。外に行きませんか?」

 ジョーンは立ち上がったマードックを誘った。

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