Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ケインの視線はマイケルに行った。

 トマスを見た後のせいか、マイケルの顔が大きく見えた。トマスより一回りは大きそうだ。首が太くて、肩幅もあった。胸も筋肉で厚みがありそうだ。一目で鍛えてある身体だとわかった。

 マイケルの目は鋭く、吊りあがっていた。四十代前半といったところか。

 顔に刻まれている皺が深かった。袖から出ている手が、毛深かった。付け毛でもしているのではないかと疑ってしまうほど、手の甲や指先にまで毛が生えていた。

 トマスもマイケルも、肌の色が薄かった。白いと表現するべきか。ケインには不健康そうに見えた。

「ハイランド貴族の力が必要です。ぜひマー伯トマスの力添えをいただきたい」

 ケインの視線が再び、トマスに戻ると口を開いた。トマスの頬の筋肉が若干だが揺れた。表情のない顔に、少しばかり憎しみの感情が見えた気がした。

「さんざん褒めておいて、我々をどん底へと突き落としたのは、どちらです? 嘘ばかり、御託ばかりを並べて、最後はありもしない罪状を突きつけてきた。記憶にないとは言わせませんよ」

 マイケルの低い声が聞こえてきた。てっきりトマスから回答がくるものだと思っていたケインは、すぐにマイケルの顔を見た。

 交渉関係はトマスではなく、マイケルに任せているのだろうか。

 ジェイムズⅠ世が勝手にやったとは言え、前国王の行為だ。ハイランドの貴族にとって、ジェイムズⅠ世だとかⅡ世だとか、そんな差異はないのだろう。

「記憶には残っています。しかし我が国王陛下は浅はかな人間ではありません。イングランドに毒されず、生まれたときからスコットランドで育ち、しかるべき教育を受けた王家の人間です」

 マイケルが失笑した。口を緩めて、肩を揺らして笑っている。ケインを馬鹿にしているのだろうか。
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