Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ジェイムズが、マードックに近づいていった。ジェイムズの姿も黒い塊となる。塊の先が、倒れたマードックの脇腹を蹴った。死んだのかを確かめているようだ。

 蹴られた反動でマードックの身体が動いたが、生きているような仕草はなかった。

(私と約束したマードックの申し開きは?)

 呼吸が落ち着いてきたジョーンには、一つの疑問が生まれた。

(ジェイムズの暗殺計画を企てていたって話していたけれど、あれは嘘、偽りだったの?)

 マードックの前で、暗殺の話は一言もなかった。イングランドで人質になっていた恨み事しか聞いていない。

 ジョーンはゆっくりと視線を上げると、戻ってきたジェイムズの顔を見ようとした。暗くて何も見えないのが悔しい。

「暗殺計画の話はどうなっているのでしょう? もしかしてジェイムズは、私に嘘を申したのですか?」

 ジョーンは恐る恐る聞いてみた。

「ジョーンも、余に口答えをする気か?」

 ジェイムズの低い声が返ってきた。機嫌の悪そうな口調に、ジョーンの心が怯える。

「いえ、単なる質問です。疑問に思ったので聞いただけですわ」

「答える必要がない質問だ。余は正しい行いをしたまで。余がした行動について、間違いはない。今後、口答えをした場合、ジョーンでも無傷というわけにはいかない。覚えておけ」

 すぐにジョーンはジェイムズに謝った。が、ジョーンは不服だった。
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