Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「アルバニ公マードック様をお捜しなら、森の奥にいます」

 ケインは森の中を指で示した。生きていれば会話もできるだろうが、多分もう無理だろう。ジェイムズⅠ世によって殺されているはずだ。

「マードック様にはもうお目にかかれまい」

 ダグラスが口を緩めて意味ありげに笑った。

 ジェイムズⅠ世によって殺されたと知った上での発言だろうか。腰巾着のようにいつもマードックの後ろにいたジェイムズだったはずではないか。

(ダグラスはジェイムズⅠ世の内応者だったのか?)

 腰巾着のように纏わりついていのは、ジェイムズⅠ世にマードックの行動を報告するためか。地位のない男が、出世するために、ジェイムズⅠ世に情報を流したのだろう。気を許してはいけない男だ。

 地位向上のためなら、ジョーンを利用する可能性もあるだろう。汚い世界にジョーンを投じたくない。利用させない。ジョーンやケインから利用する価値はあっても、利用されてはいけない男だ。

 アルバニ公の親族を嫁にもらっておいて、裏切る行為をする男など信頼してはいけない。

「良いお話を一つしましょうか。王妃陛下が従れてきたイングランド人は近々、イングランドに帰るでしょう。スコットランドにはイングランド人はいらない。国王陛下がそう仰っておりました」

 ケインの耳の近くでダグラスが囁いた。ケインがじろりと眼球を動かしてダグラスを見ると、ダグラスが「良い情報でしょう」と言わんばかりに微笑んでいた。
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