Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「御忠告に感謝いたします。が、僕はイングランドに戻るつもりは毛頭ありませんので」

 ダグラスに背を向けると、ケインは森に視線を動かした。ダグラスが舌打ちしたのが、背後で聞こえた。ケインの返答に不満だったのだろう。

 何の表情を変えずにいるケインがつまらなくて、からかい甲斐がないと感じたのかもしれない。

 ダグラスの足音が遠ざかっていくのが、耳に入ってきていた。城に戻るのだろう。年老いたダグラスの身体に、冷たい夜風は酷だろう。

 ケインは男たるもの、ころころと表情をかえるべきではないと考えてた。

 信念を貫き通し、守るべき人を守るためにはどっしりと構えているべきだ。たとえそれが、どんな逆境であっても、不利な立場にあったとしても、己が決めた信念を変えてはいけない。

 人の意見に左右され、おろおろする男など、情けなくて見ていられない。真似るつもりもなかった。
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