Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ようやく木々の間にある小道から、すっかりやつれた顔のジョーンが見えた。

 夕食をあまり口にしなかったせいか。それとも人の殺害現場を目の当たりにしたからだろうか。ジョーンが人の殺害現場を目にするのは初めての経験だろう。

 肉体的にも、精神的にもショックが大きいはずだ。少しでも早く、ジョーンの身体を休めて欲しい。

 明かりの届く場所へ出てきたジョーンの顔は青白く、頬がこけていた。深緑の瞳には疲労の色がにじみ出ていた。

 華奢な身体がさらに小さくなったようにケインには感じた。美しく輝く肌も、今はくすんで見えた。

(王妃陛下の帽子がずれている?)

 ジョーンの頭を見て、ケインは帽子が右横に移動しているのに気がついた。視線を下にもっていき、ジョーンの手に持っている物がコルセットだとわかった。

(アルバニ公マードックを殺した直後に、国王陛下は森の中でセックスを?)

 ケインの心の奥が痛んだ。マードックの殺人にジョーンを利用した上に、欲情して森の中でジョーンを抱くなんてケインには信じられない行為だった。

 夫婦なら妃を思いやるのが当たり前の行為ではないのか。汚い仕事や醜い争いなどは、極力最愛の妃には触れられぬように配慮するのが夫ではないのか。

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