Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ジョーンはイングランドで最高の教育を受けて育った素晴らしい女性だ。

 ジョーンの父親であるジョンは、名誉あるガーター勲章の受勲を受けた素晴らしい男性だった。五港長官を務めあげ、イングランド武官長としても立派に任を果たした。

 ケインが一番尊敬する人が、ジョン・ボーフォートだった。

 ケインはジェイムズⅠ世に対して、憎しみと怒りが込み上がってくる。外に吐き出せない苛々と胸のむかむかを深呼吸で落ち着けると、ジョーンの前へと歩み寄った。

 乱れた格好で城内に戻るわけにはいかない。ケインはジョーンの帽子に手を伸ばした。

「失礼します。帽子がずれていますので、直させていただきます」

 ジョーンが笑顔を向けると、抱きかかえて持っていたコルセットを持ち上げて見せた。

 ケインにはジョーンの笑顔が、無理に作っているようにしか感じられなかった。やつれた顔が、とても悲しげな雰囲気を漂わせていたから。

「無理に笑わないでください。今の王妃陛下は、悲しい目をしておられます」

 ケインはジョーンのコルセットを受け取った。

 触れたジョーン手が、氷のように冷たかった。手を握って、「温めてさしあげたい」と思う心を、ケインは胸の奥に閉じ込めた。

 コルセットに視点を合わせると、じっと眺めた。こんな間近で見たのは初めてだ。

 妹たちがドレスに着替える際、ちらっと装着している姿が見えてしまった経験はあるが。ケインには誰かに着けたことも、触ったこともなかった。
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