Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 後ろから追いかけてきていたケインが、ジョーンの前に立つと、笑顔を浮かべてドアを静かに開けてくれた。ケインの呼吸は全く乱れていない。

 息がすっかり上がっているジョーンは、涼しい顔をしているケインに冷たい目を向けてから、室内に入った。

 赤い絨毯に赤い家具が、ジョーンを迎えてくれた。三百平方フィートほどある部屋に足を踏み入れると、暖炉の前にあるソファに向かった。

 ジョーンの背後で、ドアの閉まる音が聞こえた。大股で近づいていく足音が聞こえてくると、ジョーンは後ろから抱きしめられた。

ジョーンの脇腹から、ケインの腕が出ている。ジョーンは、ケインの腕に手を置いた。

 さっきまで苛々していた気持ちが、すっかり落ち着いていた。ケインに抱きしめられただけで、ジョーンの心は幸せな気分で満たされるのだ。

 ジョーンは瞳を閉じて、ケインの温もりを感じていた。

「レティア嬢を調べますか?」

 ジョーンの耳に、ケインの低い声が入ってきた。甘い言葉を囁いてくれるのを期待していのに。出てきたのは騎士としての言葉だった。
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