Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 午後八時半。

 客人たちとの夕食が終わり、ダンスを楽しんでいると、『部屋で休むといい』とジェイムズに声を掛けられた。

 ジョーンの肩にジェイムズが優しく手を置いてくれたが、嫌悪感があった。

 部屋に戻ってきても、まだジェイムズの湿った手の感触が肩に残っていた。

 寝室のドアがゆっくりと閉まっていくのを、ジョーンは振り返ると眺めた。廊下にはケインが立っていた。

 ジョーンは左手で唇を触った。

(会いたい)の合図だ。今夜はケインと過ごしたい。ケインに愛されたかった。

 ドアの向こう側で、ケインが頭を下げた。顔を上げる際にケインも左手で、唇を触った。

『今夜、伺います』

 ドアが閉まると、ケインの姿が見えなくなった。

 ジョーンはスカートの裾を持ち上げるなり、ベッドに向かって歩き出した。ローラが水の入っている桶を抱えて、鏡台に置いていた。

 ドアを閉め終わったエレノアが、ジョーンの後ろを従いてきた。

 ジョーンはベッドに到着すると、身体を反転させた。エレノアが、ジョーンの背後に立った。ローラも、早足でジョーンに近づいてきた。
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