Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ケインの考えすぎかもしれないが、ダグラスに心を開いていけないとシグナルが、頭の中で激しく鳴っていた。

「ケイン殿は若くて、騎士として優秀ではありませんか。引く手数多ではないのですか? それとも男性が好みとか? それでもダウフィ家の継承を考えるなら」

「どう思われても構いませんが、僕に結婚の意思がないのは確かです。妻を娶る気も、愛人を囲う気もありません」

 ドアノックが二回鳴ると、エドワードが中に入ってきた。グラスに入っているエールをダグラスの前に一つ、ケインの机の前にもう一つ置くと部屋を出て行った。



        
「では、王妃陛下の男で、寵愛されているという噂が事実なのでしょうかね。イングランドから従いてきて、スコットランドに残った騎士は、貴方だけですから」

 ダグラスが勝手に納得したようだ。エールを飲むと、何度も頷いていた。ケインはダグラスの横顔を一瞥した。

 エディンバラ城では、ケインがジョーンに寵愛されている男と噂されているのだろうか。

 ケインは奥歯を噛みしめると、エールの入っているグラスを睨んだ。

(僕から何を聞き出したい?)
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