Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ケインの動揺する姿を見たいのか。

 ジョーンの愛人だと知られたケインの狼狽ぶりを嘲笑い、王妃の弱みに付け込む気でいるのか。付け込んだとして、何を望んでいるのか。

 ダグラスが内応者であるなら、ケインとジョーンの仲をジェイムズⅠ世が疑っているのだろうか。

「王妃陛下の寵愛で、僕が騎士になったとお思いですか? 残念です。スコットランドの方に、そう思われていたとは。僕の実力は認められていないのですね」

「武術大会で好成績を残しているのは、誰もが知っている事実です」

 ダグラスが立ち上がると、ケインの横に立って耳元に口を近づけた。

「ただ、見てしまったんですよね。朝方、ケイン殿が王妃陛下のお部屋から出て来るところを」

 ダグラスが口元に手を置いた。

 ケインはダグラスの顔を睨んだ。口元に手を置くのは、ジョーンと決めた愛の合図の一つだった。

(ダグラスに尻尾を掴まれている!)

 ケインの頬に力が入った。自信ありげに動かすダグラスの眉毛が、癪に障った。ケインの心を苛つかせる。
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