アシタのナミダ
白い異空間の中で
重くのしかかるダークグレイに濁った雲が、





私に与えられた小さな世界の窓を押し潰そうとしている。





最後の力を振り絞って空は泣いているのに、私は枯れてしまっていた。





記憶の中に眠る親友だった彼女がいなくなってから、私には流れないモノ。





手を伸ばせば窓の外に注ぐそれに届く。





けれど触れて握り締めたとしても、私には永遠に戻らないような気がしていた。





「長谷部さん。調子はどう?」





いつもと変わらない笑顔を湛えて栄川先生が入ってくる。





「悪くないです」





私が言うと彼女は僅かに吐息を漏らした。





「そう、よかった。今日は紹介したい人がいるの」





入って、と招き入れられた女性は違和感を生み出していた。





「精神科医の月極(ツキワ)です」





ハーフと思わせる顔立ちに不似合いの黒髪。





「アナタの心のケアを担当します」





けれど浮かべる微笑みが、私の心を少しだけ緩ませた。





「月極先生とは大学の時からの友人なの。だから、安心して」





栄川先生がベッドに腰かけて私の右手を両手で包み込む。





「今日はもう一つ、アナタに言わなければいけない事があるの」





神様。





「何ですか?」





私はどうすればいいのでしょう。





「彼の、前田トキオさんの事だけど」





神様、これ以上私の大切なモノを奪わないで下さい。





「彼はもう、眼醒めないかもしれない」





私の中で、何かが潰れた。





「彼の御両親にも、アナタのお母さんにも、今まで言わないようにしてもらっていたの。アナタの心のバランスが壊れてしまわないように―――」





小さな世界が遠退いていく。





急速に閉塞していく白い異空間の中で、私を呼ぶ声がまた聞こえる。





「―――ジュリ」





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