アシタのナミダ
ゲートを出ると、押し寄せるような人波に私は彼の手を強く握った。





絶対に離さないで。





この手が解けたら、もう二度と繋げない気がする。





だからお願い。





この手を、離さないで。





彼は左手に二人で一つのトランクを、右手に私を連れて、人波を泳いでいった。





その力はとても強く、けれど優しく包み込む暖かさがある。





そんな彼に、私は不釣り合いなんじゃないか。





彼と付き合い始めてからずっと続く不安が脳裏から湧き出し、全身へとじわりじわりと広がっていく。





握る手が不意に冷たくなって消えてしまったら、きっと私は耐えられない。






無意識の最果てに追いやった影が、私の足元へ忍び寄っていた。





「ジュリ………」





名を呼び、全てを覆うかのように両手を伸ばす。





「―――ジュリエ。どうした?」





意識は現実へと舞い戻り、覗き込む彼の瞳に私が映る。





「……何でもないよ」





そうか、と彼が微笑み大きく広がる窓からダークグレイの空を仰いだ。





「雨、止みそうにないな」





雨。





あの日も、雨だった。





忘れてない。





私は、忘れてないから。





「よし、車までダッシュ!」





私ははぐれてしまわないように、もう一度強く手を握る。





彼は私とトランクを引きながら、走り出した。





まだ人波に溢れるロビーを抜けて、雨に洗われる潮風の中を、ただひたすら真っ直ぐに。






< 3 / 50 >

この作品をシェア

pagetop