アシタのナミダ
激しく打ち付ける雨音と規則正しく揺れる車のゆりかごで、私は幸せに埋もれていた。





「ジュリエはよく眠るなぁ」





微睡みの中で漂いながら、その声に耳を傾ける。





優しさという光が私の行く先を照らしてくれている限り、





眠りの海に溺れても、迷う事なくアナタの前に浮かび上がれる。





アナタを愛していく事が、私の生きがい。





だからトキオ、これからもアナタをスキでいさせて。





言葉にすればそれはチープに聞こえてしまう。





だから今は言えない。





いつか臆せず言える時までとっておこう。





でも、その日は遠くない。





だって私達は―――





「トキオ。学祭の舞台のセリフ、まだ全部憶えてる?」





「起きてたんだ。忘れるわけないよ」





私は頷きながら上体を起こす。





「その時のセリフで―――」





空港から続く高速道路は台風かと思うほどの雨量で、見える物は前を走るセダンだけだった。





「トキオ。あの車、何かおかしくない?」





身体を起こした私はフロントガラスに映る異変に気付いた。





左右に揺れながらその車は走っている。





「ホントだ。どうしたんだろう?」





わざとなんだろうか。





雨に足を取られないため? 





それとも、もう自由が効かない?





「トキオ、気を付けて。あの車―――」





と言いかけた瞬間だった。





そこからの記憶は断片的ではあったが、とても鮮明だった。





スピンをし、急激に減速するセダン。





私達の乗った車と互いの右側面が衝突し、セダンは中央分離帯へ、私達の車は路側帯へ。





激しい衝突を繰り返し横転すると、ようやく止まる。





そして、私の世界は闇に落ちた。

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