アシタのナミダ
トキオを思えば思うほど、幸せだった日々とは反対の感情が溢れていく。





私はどうしてしまったのだろう。




「カレンも、今のジュリみたいに悩んでいたよ」





私の奥深くで、何かが脈打つのがわかった。





「カレン、ですか?」




「そうだよ。あの事件の前に、相談に来たんだ。ここへ」





鼻先をくすぐる懐かしい匂い。





「好きになったホストに何もかも拒否されたのに、まだ愛しているって。忘れてしまえばあんな事にならなかったのに」





記憶や思いを脳のメモリーから永遠に削除できたら、全ての苦しみから救われるのだろうか。





「カレンは忘れようとしたんですか?」





私は俯いて、顔を上げられなかった。





若間さんの目に私の心が見透かしてしまわないかと心配だった。





「忘れるつもりなんてなかったんだ。忘れたら、その気持ちを持った自分に嘘を吐く事になるからって」





少し寂しかった。




「カレンは、自分とお腹の子を守ろうとしたんだ」





カレンが私ではなく、若間さんに悩みを打ち明けた事が、悲しかった。





「カレンは、若間さんに救われたんですね」





彼は首を横に振り、





「違うよ」





と言った。




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