アシタのナミダ
ワスレナイ
部室の天井は学生のいろいろな場面を見てきたんだ。





トキオがカレンに約束をしたあの日も。




「若間さん、どうして今まで話してくれなかったの?」





ソファに仰向けになっていた私はミネラルウォーターを買ってきた若間さんを見つめた。





「カレンが死んで悲しかったのはみんな一緒だよ。だけどいつまでもその思いに埋もれていてはいけない。だからほんとうのカレンの話をしなかったし、トキオにもジュリには話さないようにと言っておいた」





体を起こして差し出されたペットボトルを受け取る。





「そんな事しなくても私達は上手くやれたよ」





そうかもね、と隣にすわりながら若間さんは缶コーヒーを開けた。





「確かに僕は心配し過ぎなのかもしれない。でもジュリが事実を知ると、カレンに遠慮して幸せになれないと気がしたんだ」





知らないのは、忘れてしまう事より残酷だ。





「トキオにそう言ったのも同じ理由?」





忘却の彼方にすら存在できない。





「そうだよ。僕は君が大切なんだ。妹のように思っている。だから、幸せになってほしい」





勝手だよ。





「若間さんはカレンの事を忘れたいの?」





まだ吐き気を引きずったまま立ち上がった。





「私は忘れない」





約束したんだ。





「絶対に忘れない!」





カレンが、私を見てるから。





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