空色の瞳にキスを。
トキワが部屋の中で見たのは、ほんの少しの銀の煌めき。


ルグィンたちほど夜目の利かないトキワでもその小さく優しい光は捉えられた。


その銀を見つけて、一瞬トキワは立ち止まった。

暗闇の中で微かな銀の光を放つ、そんな息が詰まるほどの神秘さに、心を奪われたから。



きっとここに王女がいると、王女の護衛役の彼らの振る舞いでトキワは分かっていた。

だから、きっとあの銀は自分達が狙うナナセ王女の放つ銀。



それを知ってなお、彼の心は素直に感動を覚えた。

仮にも敵対する、自分達の獲物に小さな情を被せる。



―こんな立場の俺なのにな。


狩人自身の思いを心の中で嘲笑っても、心は当然変わりはしない。


自分がこれから傷付ける、そんな相手を素直に美しいと思ってしまう。


「待てよ…!」

しかし後ろから聞こえる一人分の足音が、見惚れる時間を与えない。

黒髪の狩人の足音が生んだ焦りを胸のうちに抱えて、扉のある場所の向かいの門にいる銀まで走った。

近付くにつれて、銀の正体がが明らかになっていく。

ぼんやりと光を放っていたのは、狙いの王女の銀髪。

部屋の隅にうずくまるように膝を抱えて、瞳を閉じているこの王女は全く動かない。


小さく聞こえる寝息が、トキワに彼女が眠っていると感じさせる。

ついに、彼女の目の前に辿り着いた。


「トキワ!」

また後ろから切羽詰まった声が聞こえ、俊足の彼に追い付かれる前に銀の王女を人質にとらなければと、狩人はまた少し焦る。

振り返り黒猫と距離があるのを確認して、うずくまったままの少女に手を伸ばす。


トキワの手が、ナナセの肩にわずかに触れたその瞬間。

少女の姿はグニャリと歪んで、何本もの銀の光の束となり、トキワを包み込む。

銀の束は瞬間にナナセの人形のようなものがいた場所を中心として、黒髪の狩人に襲いかかってくる。

トキワに抵抗する間も与えずに、銀の触手が彼の身動きを封じる。

襲いかかられたのに、柔らかく扱われているような不思議な感覚に陥る。

罠、と気づいたときにはもう遅かった。

狩人の手を、足を、身体中を、銀の柔らかくも強い銀の光を溜め込んだ触手が包み込んでいて。



油断と焦りからの、失態だと知っているのに、悔しさを彼は感じた。

護衛の彼ら二人を殺そうと、護衛された王女を拐おうとしていた。

殺意は端から見ても分かるほど放ったのに、この魔術にはまるで殺意がない。

それも自分たちを馬鹿にしているようで、悔しさを倍増させる。


沸々と沸く怒りに似た感情に、トキワはぎりりと、歯を軋ませる。

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