空色の瞳にキスを。
時間にすればほんの一瞬のその出来事。

その一部始終を、部屋の入り口で黒猫は見てしまった。

悔しさに目の前を真っ赤にして下を向いているトキワ。

そして、呆然と立ち竦むルグィン。

一瞬の出来事に、言葉が出なかった。


眠らせていた彼女がいなくて。


彼女のものらしき魔術がトキワを捉えて。



それよりも。


─あいつは、どこに?


色々な制御出来ない感情が押し寄せてきて、黙っていると、自分の後ろからでない、違う場所から足音が聞こえた。



「…ごめんね。」


柔らかな切ない声が、足音と共に鼓膜に届いた。

ルグィンが声のした方を見ると、そこに探した王女の姿があった。

銀の髪は相変わらず闇の中でも微かな光を放っている。

偽物の銀髪よりも、もっと神秘に満ちていて。

伏せられた瞳をあげればきっと、スカイブルーの光があるはず。


彼女の光が異形である彼は人よりも、何倍も鮮やかに視界に映る。

ゆっくりと、空色の瞳が開かれた。

「あたし…毒は人よりたくさん飲まされてきたの。
…だから効き目が弱いの。」

ゆっくりと、部屋の隅で縛られているトキワへと歩み寄る。


誰もが声を失った空間に、ナナセの靴の音が響く。

そんな彼女を、トキワは無言で睨み付ける。

その瞳から逃れることなく、歩みを止めずに真っ直ぐに視線を返す。


彼女の着ているワンピースの裾が、彼女が歩くごとにひらりと宙を舞う。

彼女の優しい声は、どこか悲しげで、聞いている方は切なくなる。


「あたしだって、そんなにヤワじゃないんだよ?」

彼女は二人に向かって小さく笑う淡い銀に包まれたナナセの笑顔は、ひどく痛々しく見えた。

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