空色の瞳にキスを。
「俺か?

国の反逆者を三人捕まえたぜ。

普段の仕事も捨て駒部隊だから時給はそこそこいいけど、あれだな!

首狩りは桁違いに金が貰えるなからな。


特に王女だな!

3桁違いな金額だ、いつかこの手で仕留めてやりたいぜ!」

はははっと元気よく笑ったあと、黒猫を振り返れば、彼の後ろを歩く少女の表情に目がいく。


「お?

ファイ、お前どうしたの?
顔が引きつってねぇか?」


黒髪の少女は話を振られたことに肩を跳ね上げて若干驚いたが、すぐに顔の筋肉を緩める。


自分を仕留めたいと願われることは、気持ちのいいことではない。

上手く笑って言えるか、不安だった。

「あ、大丈夫です。

ただ、首狩りって危ないでしょう?

賞金首を追うのって命懸けでしょう?

…だから、怪我されたら嫌だなぁって。」

ふっ、と下を向いて黒い瞳を伏せる少女。


完璧に嘘とも言えないが、咄嗟に考えた言葉が黒髪の少女の口からするすると出てくる。


─『命懸けで戦う彼が心配』なんて。


健気な言葉で塗り固めた自身の心の中は、不安で溢れかえって。


ナナセである心の中は、今しがた知った事実に混乱していた。

ルグィンの仕事については聞いたことなかったけれど、まさか自分を追う部隊だとは知らなかった。

─裏切られたなんて、思いたくない。


─なんで、言ってくれなかったのかな。


黒髪の少女のそんな心の内は、初対面のナコになんて分かる訳もなく。

表情の小さな変化に気づいたルグィンは、自分の背中にくっついて歩く少女に、明るい金の瞳を向ける。


─強くて、明るいいつもあたしが見ている綺麗な瞳。


その瞳は、『信じて』とでも言っているようにファイであるナナセには感じられた。


だから少女は真っ直ぐな黒い瞳を返した。

彼の視線ひとつで、動揺していた心の内はゆっくりと落ち着いていく。


─きっと、大丈夫。


何の根拠もなくそう思って、はっと気付く。


─もう。


─もうこんなにあたしの中の信頼が大きいんだ。



─きっと。


─ルグィンなしではダメなんだろう。


どうしてか、そう思った。

ぎゅ、と締め付けられたような切ない胸の痛みを感じながら、ファイは悲しそうに小さく笑った。




もう信頼は、仲間はなくては生きていけないあたしの心。



糧になることも、枷になることも分かっているのに。



止まらないんだ─…。

< 166 / 331 >

この作品をシェア

pagetop