空色の瞳にキスを。
「うわ、」


魔力でナナセを浮かせたのはカイだった。

娘よりもはるかに弱い魔術師は、魔力を高く消費する術を使っている。
毒に侵された身体にはかなりの毒だ。

混乱で呆然とするナナセを見上げ、カイは続ける。


「魔を使えるものは尊敬される。
自分ひとりで、暮らせるな?

──生きて……いろよ、ナナセ──」

最後の最後、詰まった言葉はちゃんと聞こえた。

右手をナナセに向けて魔を放っているカイはふっと笑った。

その顔はだんだん苦しそうになる。
辛い体で大きな魔力を消費しているからだ。
息が荒くなり、また白いシーツに血が落ちる。

口元の血を拭って、カイは最後に儚く笑った。

「お別れだ」

カイは悲しそうにナナセを見上げる。

悲しそうなのに、どこか優しそうな表情で。

──やだ。

ナナセの顔が歪んだ。


「とうさん」

涙が、ひとつ、ぽろりと落ちた。

私も戦いたいと、がむしゃらに手足を動かして下ろしてと願う。

自分ではまだかけられた魔術は解けないからもどかしくて、下ろしてと請えば無邪気に笑われて、悟る。

──こんな別れになるなんて思っていなかったのに。


「バイバイ……ナナセ。
生きて幸せに、なれよ。」


「やだ、しなないで、とうさ「まさか、ナナセが石を持っているのか!」

ライが素早くナナセを掴みに来る。

掴みに来たライの手をかわすために、カイが指を窓ガラスへ向けて小さく人差し指を振った。

「────やだ─────!!」

カイの魔術でナナセはガラスへ向かって飛ばされる。

背中にガラスの感触があったと思うと、大きな音と破片が飛んだ。
部屋の窓ガラスの割れる音が部屋中に響く。


銀の小さな王女は空へ投げだされた。
ガラスの破片と共に下へと落ちていく。

父へと伸ばした小さな手は空を掴み、ガラスの破片で手を痛める。
手なんか、魔術で守ればどうにでもなったのに、そんなことは考えられなかった。

ただただ父を呼ぶだけだった。

窓から二人が見えなくなる時、ライがナイフを手に光らせ、カイの胸へ突き立てる一瞬が見えた。

ナナセの心臓が止まったようだった。
それまで出していた声が、出なかった。

絶望が涙になって滲んだ。

それは、幼いナナセにとって両親をなくして、ただ一人で生きていくことで。

ただひとりになった小さな王国の王女は、涙と過ごした父との思い出をそこに残して下へ下へと落ちていった。


──あたしの運命は、いつから狂っていたんだろう。


──いつから?
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