空色の瞳にキスを。
「ちょ、待てっ…おいっ―!」
トーヤの叫び声にも黒猫は構わず跳躍を続ける。
トーヤから辛うじて見えるルグィンの横顔は、何にも動じないように冬の冷たい風を受けている。
「俺が悪かったから!
だから降ろせー!」
地上が近付いたり遠ざかったりすることに本格的に気持ち悪くなり始めたトーヤは、風の中で必死に怒鳴る。
その声にやっとスピードを緩めた黒猫にトーヤはほっとする。
そして黒髪の男は、近くの町の一番高い煉瓦造りの建物の屋根に軽やかに足をつけて、肩からトーヤを降ろした。
「分かればいい、別に。」
無愛想なそんな声が、気持ち悪さに頭を抱えるトーヤの頭上から聞こえた。
茶髪の少年が隣に立つ黒猫を見上げると、心なしかいつもより輝く金の瞳と目が合った。
思わずその瞳に見惚れて、ガキかよと続けようとした声をトーヤは飲み込む。
帽子と男にしては長い綺麗な黒髪が風に遊ばれて、薄明るい夜明けの空に照らされる。
冬の冷たい空気がきらきらと輝く中、黒猫は目を細めて遠くを見ている。
その姿は同性であるトーヤから見ても文句は言えなかった。
─こいつ、異形じゃなけりゃきっともてていたんだろうな。
なんて、端正な顔立ちを隣で眺めながらトーヤは思う。
遠くを見つめる黒猫の瞳。
きっとその先には、トーヤには見えない少女が見えているのだろう。
トーヤがそう確信するのは、この男の瞳が誰を見つめるときよりも優しい色をしているから。
─そう、アズキに聞いたときから知っていた。
この男の、黒猫の存在。
「黒猫…。」
「あ?」
「な、何でもねぇよ。」
無意識にルグィンの異名を呟いていたトーヤははっと我に返り誤魔化す。
─この切ない瞳は、武人らしいその手は、いつも彼女を気遣う。
それを改めて認めてしまえば、トーヤは何故か声が喉元で詰まるような感覚を覚える。
─その訳を、俺は知ってる。
自分が闇の産物となるまでは、俺のほうがナナセにふさわしい、なんて思っていた馬鹿な俺。
でも。
でも。
この目を見たらもう文句は言えない。
行動ひとつひとつで、身体中で、愛しいと叫ぶその姿には勝てないと思ってしまう。
─きっとこの思いは、俺がナナセを少なからず想っていたから。
トーヤの叫び声にも黒猫は構わず跳躍を続ける。
トーヤから辛うじて見えるルグィンの横顔は、何にも動じないように冬の冷たい風を受けている。
「俺が悪かったから!
だから降ろせー!」
地上が近付いたり遠ざかったりすることに本格的に気持ち悪くなり始めたトーヤは、風の中で必死に怒鳴る。
その声にやっとスピードを緩めた黒猫にトーヤはほっとする。
そして黒髪の男は、近くの町の一番高い煉瓦造りの建物の屋根に軽やかに足をつけて、肩からトーヤを降ろした。
「分かればいい、別に。」
無愛想なそんな声が、気持ち悪さに頭を抱えるトーヤの頭上から聞こえた。
茶髪の少年が隣に立つ黒猫を見上げると、心なしかいつもより輝く金の瞳と目が合った。
思わずその瞳に見惚れて、ガキかよと続けようとした声をトーヤは飲み込む。
帽子と男にしては長い綺麗な黒髪が風に遊ばれて、薄明るい夜明けの空に照らされる。
冬の冷たい空気がきらきらと輝く中、黒猫は目を細めて遠くを見ている。
その姿は同性であるトーヤから見ても文句は言えなかった。
─こいつ、異形じゃなけりゃきっともてていたんだろうな。
なんて、端正な顔立ちを隣で眺めながらトーヤは思う。
遠くを見つめる黒猫の瞳。
きっとその先には、トーヤには見えない少女が見えているのだろう。
トーヤがそう確信するのは、この男の瞳が誰を見つめるときよりも優しい色をしているから。
─そう、アズキに聞いたときから知っていた。
この男の、黒猫の存在。
「黒猫…。」
「あ?」
「な、何でもねぇよ。」
無意識にルグィンの異名を呟いていたトーヤははっと我に返り誤魔化す。
─この切ない瞳は、武人らしいその手は、いつも彼女を気遣う。
それを改めて認めてしまえば、トーヤは何故か声が喉元で詰まるような感覚を覚える。
─その訳を、俺は知ってる。
自分が闇の産物となるまでは、俺のほうがナナセにふさわしい、なんて思っていた馬鹿な俺。
でも。
でも。
この目を見たらもう文句は言えない。
行動ひとつひとつで、身体中で、愛しいと叫ぶその姿には勝てないと思ってしまう。
─きっとこの思いは、俺がナナセを少なからず想っていたから。