空色の瞳にキスを。
ひとつため息をついて、トーヤはルグィンを見上げ、呟く。


「お前、あいつが好きだろ。」


ぽつりと朝の静けさにこぼしたトーヤの言葉に、黒猫の表情が強張る。

冷静に見えるルグィンのその小さな動揺にトーヤは内心驚きながら、平静を装い、続ける。


「そんな反応じゃ、丸分かりだぞ。」

堪え切れずに思わずトーヤが笑ってしまって、言葉の端がうわずった。


黒猫はその声に少し眉をひそめて、だけど真っ直ぐにトーヤを見詰めて口を開く。


「そうだ。

悪いか。」

思いもよらなかった答えにトーヤは目を丸くする。



─てっきり否定すると思っていた。


異形が、一国の王女を、なんて。

そんな身分差の恋なんて。



だけど逃げずに肯定する目の前の男にどうしてか負けたと思ってしまう。


その真っ直ぐな心は、トーヤが思っていた冷たい性格の異形の印象を崩していく。

冷たい性格の中でその印象が宝石の原石のようにきらきらと輝いているようにトーヤは思えた。


眩しくて、羨ましいとトーヤには思えた。


揺らがないその瞳に、用意していた反論の言葉は崩れていく。


「…別に。」


─俺の初恋はあっけなく散って。

だけども辛くも何ともなくて、逆に清々しいのは何故だろう。



─この想いはなくてもナナセと共にいられると知ったからだろうか。

─それとも、意外に優しいこの異形の男の素顔を少しでも知ったからだろうか。



相変わらず冷たく訝しげな視線を送ってくる黒猫に、トーヤは訳なく緩く笑んだ。


それに不審そうに見てくるルグィンから視線を外してトーヤ口を開く。

知ってるかもしれないけど、と前置きをして。

「キリタニ・トーヤだ。

トーヤって呼んでくれたらいい。

助けてくれてありがとうな…黒猫。」


「シュン・ルグィン。

別に、構わない。」

視線を外せば、トーヤの目にもナナセとアズキが見えてきていた。

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