空色の瞳にキスを。

4.踏み出した世界

ほら、とナナセが指を差す。

その指先に見えたのは、懐かしいふるさと。


たった1ヶ月ほど離れていただけなのに、長く見ていなかったようにアズキは思う。


「リョウオウだ…。」

せりあがってくる懐かしさに、アズキは声をつまらせる。


昔から町の誇りだと言う時計塔が見えて、それからトーヤの父が働く工場が見えて。

その奥にはアズキの家。


アズキの瞳が揺れる。

涙で滲み始めたその目の先には、古くて優しい自分の家。


「ナナセ…じゃなくて、ファイ…!

どうしよう、どうしよう…。

お母さんやお父さんに、何て言えばいいの…?」

アズキがファイに掴みかかって焦りを露にする。


「大丈夫、アズキらしくあればいいよ。」

答えをぼかしてファイが微笑んだ。

その笑顔と答えにどう答えようかとアズキが戸惑っている間にも、アズキの家へとどんどん近づく。

「黒猫、ありがと。」
「ん。」

「ほら、アズキ。」
「…うん。」

すとん、と羽のように軽く4人がソライの家の庭に音もなく降り立つ。


地面に足がつくと、ファイがにこりと笑い、アズキと繋いだ手をするりとほどく。

「頑張れ。」

その空の瞳の青さに、アズキは腹を括る。

「うん、頑張る!」

左の目を隠した前髪をふわりと揺らしてアズキは自分の家の扉へ駆け出した。



─まずはお母さんに、お父さんに、お祖母ちゃんに。



─会いたい─。



こんなに自分の家の庭が広いと思ったことはなかった。

気持ちだけが急いて、急いて。

進め進めと思っても、なかなか足が進んでくれない。


やっと辿り着いた自分の家の扉を、有らん限りの力でアズキはめいっぱい押し開ける。


早朝、突然押し開けられた扉の大きな音に、アズキの両親のエリとコルタが飛び出してきた。


二人とも、扉を開けた娘を見て立ち止まる。

喜びと、驚きと、悲しみとがない混ぜになったような顔をして。



そんなに走ったわけでもないのに、アズキは息ができなくて、声が出なかった。


「…っ…。」


一ヶ月ぶりの両親は、アズキの目にも分かるくらいに確かに痩せていて。

姿を見ただけなのに、アズキの声は喉につかえて出てくれない。

口をぱくぱくと動かしても、肝心の声は出なくて、諦めて口を閉じる。


─喉が焼けるように熱くて、苦しい。


─言いたいこと、たくさんあるのに。


代わりに出てきたのは嗚咽と涙。


「…─おか…さん…おと…さ…」

茶色の目から盛り上がった涙は、アズキの視界の両親の姿を滲ませる。


言葉を作ろうとしても、胸の熱さが、喉の熱さが邪魔をして上手く作れず、アズキはただ涙を流す。



そんな娘の姿に、エリが堪らず駆け出した。


続いて、コルタが。



数秒後にはアズキは二人の腕の中にいた。

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