空色の瞳にキスを。
 トーヤとアズキの鍛錬に付き合う他は、今日のナナセはこれといった予定を持っていなかった。夜行性の首狩りを避けるために、彼女らの魔術練習は午前中の日課になっていた。

 廊下を歩いても見覚えのある賞金首や首狩りを見かける。サシガネやトキワだけではない。国一番の賞金の彼女を知る人間は多い。彼らは屋敷の中では戦わない契約の下にあるとのことだったが、それでもあまり気乗りはしなかった。

 姿を変えているといっても、魔術を使ったときに見せる魔術の色は変わらない。自分の使う明るい水色はよくある色ではないらしい。偽るのはさほど得意ではない。仕草でぼろがでないとも限らない。ルグィンもスズランものいない今日は、気分転換のためとはいえ、ひとりで外を歩くような気分にはならなかった。

 ルグィンはナナセたちとは違い、特に追われる立場でもないため、よくスズランに人手としてかり出されているらしい。一部にはルグィンは王女と行動していると漏れているらしく、人目につかないようにと忠言していたところをナナセは見たことがある。スズランがそれほどまでしてルグィンを呼ぶのは、同じ改造人間としての扱いやすさだろうか。


 トーヤは暇だと転がっているし、アズキが窓際で日にあたりながら床に届かない足をぷらぷらと振っている。ナナセは暇ができれば書物に触れるようにしているが、今日はそういう気分ではなかった。暇をもてあまして、冬の晴れた空を見ている。


 空の青に翼を広げた生き物が飛んでいる。ソウレイは元気にしているのだろうか。
 あの街は思い出したくない。自分を変えた人の背中を思い出していた。どうして今、彼を思い出したのか。

 壁に掛かったカレンダーに目が行く。息が止まる。今日は雨の月最後の日だった。

「あと二日か……。」

 目を細めて唇を引き結んだナナセをアズキが凝視する。視線に気付いたナナセはいつもの癖で何でもないよと強がった。
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