空色の瞳にキスを。
その後は、スズランにあまりその姿で出歩くなと釘を刺された。人が少なく、ナナセにも屋敷が初めてだった今日は特別らしい。出歩くときは、誰かをつけるか、変化の魔術を、とスズランが何度も言う。

スズランの屋敷では様々な立場の人間が取引のために集まるらしく、例えば賞金首でも屋敷内では狙うことを掟によって禁止している。それでも危ないことには変わり無いからとスズランは念を押した。

そして、目的の部屋へたどり着いた。スズランは慣れたように二人を招き入れて、扉を閉める。ナナセはその背中を見つめていた。
──言わなきゃ、

「……あ、」

ナナセが溢した一声に、スズランが振り向いた。

「何?」

「ルグィン、あたしを助けてくれて……ありがとう。スズランさん、看病してくれてありがと……。」

ルグィンのきつい金の光を称えた瞳が、スズランの見ているなかで少しだけ優しく見えた。スズランは縮こまるナナセに優しく笑った。

「どういたしまして。」

ふぃっと視線を外し彼は呟く。

「別に。」

暗い光のなかにナナセはかすかな光を見た気がした。なんだか泣きそうになって、上手く笑えなかった。

「それより、ルグィンは呼び捨てで、私はさん付けなの?」

スズランは自分の言葉に本当に彼女の焦る姿が面白くて、普段あまり笑わないのについ笑ってしまう。繕わないでいる彼女の隣はこの短い時間だけでも居心地が良くて。

「私も呼び捨てで呼んでよ。年だってあんまり変わらないはずでしょう。貴女の名前もちゃんと呼ぶわ。」

名前を呼ぶと約束しただけで顔を輝かせるナナセを見て、口元を緩めた。

──けれどこれとそれは別。

「さて。」

スズランの魔力はキラキラとした黄金色にナナセには見えた。簡単だけど、魔術をかけた本人が解かないうちは扉が開かない仕組みの鍵の魔術だと分かった。
扉に鍵の魔術を紡いだスズランは、ナナセを振り返った。

「この家の一部屋一部屋には防音の魔術がかけてあるわ。なにを話そうと、叫ぼうと、届かない。

話をしてくれないかしら。
貴女はなにか、知っているでしょう?──ナナセ王女さま。」

「……うん。」

こわごわ頷いた。いいよ、とナナセはベッドに腰を掛けて口を開く。

──うん、大丈夫。

この二人なら大丈夫と、一人でもう一度頷いた。ナナセの瞳が淡いスカイブルーが、緊張から深いものへと変わる。震える喉で空気を吸い込み、そろそろと口を開いた。



「──あたしは、父を殺していません」


そろそろと開かれた唇から落ちた声に、スズランが目を見開いて固まった。
それは彼女が聞いてきたことと逆のことだろう。
扉の前で座っていたルグィンは分かっていたようだ。
彼にしては見開いた金色の瞳をしていたが、口元を緩めるとともにいつもの瞳へと戻し、また俯く。

父親のこと、執事の裏切り。手短に今へと繋がるを過去を選ぶのは、思ったよりも難しい。

最後に語ったのは、勿論リョウオウの街のことだ。語る自分の、彼らへの好意を隠せなかった。話が現在に近づくにつれて、視界が歪む。ナナセは俯いて必死に歯を食いしばる。泣くな、と必死になるナナセを、スズランはそっと抱き締めた。

「貴女……頑張ったのね。」

優しい温度に、余計後ろめたくて、涙がふきだして止まらない。無茶苦茶に拭うけれど、きりがなかった。

「アズキ……ごめんね、アズキ……。」

──届いて。

──自分だけ逃げてしまった、馬鹿なあたしのお詫びが、少しでいいから、届いて。


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