空色の瞳にキスを。
腕組みをしたサシガネは、僅かに目を落として、穏やかに笑った。

「今はな、獲物を待ってるんだよ。」

普段賑やかなサシガネの静けさにユリナは内心とても驚いた。

「獲物、ですか。」

「そう。なかなか尻尾を現してくれなくてさー……。」

証拠をはっきり落としてくれなくて、と笑う目は笑っていない。

「そうなんですか。」

早く尻尾を出すと良いですね、とは視線が怖くて言えなかった。
仕事の話になると鋭い視線と雰囲気をがらりと変えるサシガネに、三週間経ってもまだユリナは慣れない。

いくらか歩いて、一際大きくて堅そうなひとつの扉を通り過ぎた。瞬間、サシガネがその扉を振り返った。

「お、訓練室じゃん!トキワ、寄っていくか?」

「お、いいな。」

長い黒髪をひらりとなびかせてサシガネの隣へと立つと、思い出したように後ろにいるユリナとルグィンを振り返った。

「お前らも、来るか?」

トキワが何気ない調子で言った言葉に、ユリナは戸惑った。ちらとルグィンを見上げると、いつもより丸い目で立ち止まって首狩りふたりを見ていた。

「訓練室って……。」

「闘うところだ!」

右拳を上げて、やたらと乗り気なのはサシガネだ。普段落ち着いているトキワも、サシガネの隣でいつになく晴れやかな顔だった。

「……という訳だ。」

サシガネの一言を説明と言えるのかどうかは分からないが、トキワがそう締めくくる。

「本当に闘うの……?」

「そりゃ本当に闘うけど……まぁ、一応殺しはしない。」

ユリナの不安げな表情に、はは、とサシガネは笑う。その答えにはまだ満足はいかないらしく、ナナセは俯いた。

「そう……。」

「やっぱり女の子は闘いが嫌いかー。
あ、黒猫は行くだろう?」

黒猫と呼ばれたのは、隣にいるルグィン。

「いや、俺はいい。……好きじゃないし。」

「それだけ強いんだから、闘いが嫌いなわけ無いだろー!」

サシガネがルグィンの腕を掴み、扉の先へと引っ張って行く。
「おい待てって……。」

彼のそんな抵抗もむなしく、トキワも彼を引きずって、楽しそうに大きな扉を開ける。

「ほら行くぞ。」

少し声を張り上げたサシガネの言葉が掻き消えるくらいの喧騒が中から聞こえてきた。それにまた驚いていると、ルグィンは嫌そうな顔で二人に連れられて扉の先へと消えていった。

「……あ、あれ……。」

小さな呟きをこぼしたユリナは一人、彼らが消えた扉の先を見つめていた。伸ばしかけた手が宙にさ迷う。

「……どうしよう。」

しばらく悩んだ後、ユリナは目の前の重く分厚い木の扉を押し開けた。

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