空色の瞳にキスを。
後ろから突然肩をぽん、と叩かれた。小さく警戒心を抱いて振り返ると、驚きを含んだ瞳の見慣れた少年がいた。

「……え、ルグィン?」

「ユリナ?大丈夫か、ここ武闘場だぞ?」

「うん、大丈夫。」

微笑んだユリナは、本来のナナセの顔をしていた。
優しく光る、彼女の淡い青くて澄んだ瞳。その瞳にこの場所へいることへの迷いはなかった。
一瞬、ふたりは向かい合い見つめあった後、どちらからともなく視線を逸らしてサシガネたちのいる中央を見た。
まだまだ闘いは終わらないように見える。

サシガネの剣を打ち合う楽しそうな表情。トキワのきらりと光る鋭い瞳。それは明らかに楽しんでいる表情だとユリナは感じた。

長い長い闘いの後、ひときわ鋭い金属音のした後、大きな歓声がした。
綺麗な黒い髪が立ち上がりざまにサラリと流れる。高い足場の上に立ち上がったトキワと、それに続いたサシガネとが男たちの拍手と喝采に包まれる。

ぽかんと彼らを見ていると、彼らはほとんど傷のない顔を綻ばせてた。
まるで勝ったことを自慢するように誇らしげに、彼らはユリナとルグィンに大きく手を振った。

そして皆の視線はユリナとルグィンに集まる。男のひとりが銀髪の少女を指差した。

「おい、あれ……!!」

銀色の女の存在に、この部屋もざわざわと男たちが騒がしくなる。そのざわめきに助け船を出すかのごとく、サシガネが偽名を大きな声で呼ぶ。

「ユリナッ、ルグィン!」

大きく手を振って、笑顔でユリナも彼らたちに返す。

あまりに嬉しく手を振ったからか、ルグィンが笑ってナナセを振り向いた。

「ユリナ、向こうへ行くか?」
「行っていいの?」

ユリナは隣にいるルグィンを見上げる。

「いいぜ、ほら。」

とん、と肩を叩かれ、二人並んで歩みを進める。
ユリナとルグィンが部屋の中央の足場まで向かう道のりにいた男たちはさっとわきへどいて、自然と道ができた。それはまるでどこかの高貴な人を迎え入れるようで、昔いつかのどこかで見た光景に、場所と人が違えどよく似ていた。

あの頃の記憶と傷は、銀の少女の中で消えてはいない。歩きながらユリナが唇を引き結ぶ。
ユリナの肩に置かれていたルグィンの手が、今度は頭の上に乗った。ぽん、と前髪を軽く叩いて、少年は前を向いたまま表情を変えずに小さく呟く。

「なにも考えなくていいから。」

額に触れた指先に心強さを感じて、ユリナはまた前を見据える。

歩くだけでたくさんの視線が注がれるが、ふたりは負けない。
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