空色の瞳にキスを。
ユリナの目の前、つまり男が刀を降り下ろしたあたりには、赤い炎の盾があった。
男が刀を振り上げてから降り下ろすまでのほんのわずかな時間で出現させたもの。

紅い炎がぐにゃりと形を崩して、新たな形を作っていく。
細長く人の大きさよりも少し大きな龍が出来上がった。

鱗が深紅をしていて艶がある、そんな龍。炎から変化したその龍の姿はまさに炎そのものだった。赤い鱗がてらてらと輝く。
その龍が足場に立つユリナの隣へと並び、尻尾を上下に揺らす。
その動きがなんとも誇らしげで、ユリナは我知らず笑う。

手を触れれば火傷をしそうな赤色の鱗に手を伸ばした。小さく笑んで、鱗に触れる。

「──ソウレイ……。」

黒猫の耳が拾ったのは、少女の優しげな声だった。呟くそれは龍の名らしい。

ルグィンは声を飲み込んで、ユリナの行動を見守る。彼女は優しい瞳で杖を持たない方の手で龍のソウレイの鱗を撫でる。ソウレイは気持ち良さそうに瞳を閉じる。

「またお前か、娘。」

しわがれた地響きのような声はさほど大きくないのに、低く響く不思議な声だ。

「うん、またあたしだよ、いつもごめんね……。」

柔らかくソウレイの鱗に触れるユリナの視線は刀を持つ男に向けられた。
呆然とユリナを見ていたルグィンはもう一人の男に背後を狙われ、また闘いに集中する。ルグィンの相手は長剣使いだった。刀が当たらないように足場を飛び回り、体術を繰り出す。

「いいさ。お前は魔力が高いから召喚されても楽に動けるからな。しかし、魔力は何処へ行った?使い果たしたか……ふむ。
おぉ娘、敵はあいつか?」

ソウレイが紅い瞳を男に向けた。

「そう、あの二人がそうよ。仲間は黒猫みたいなあの人だけ。
殺しはしないわ。」

どんな人でも殺さないというのがユリナの、ナナセの意思だ。龍の喉の奥でごうと炎の鳴る音がする。

「あぁ、それくらいは分かっておるぞ。会った時からそうであろうが。
ほら、敵が来たぞ。」

ユリナが顔を上げれば、男ががむしゃらに走ってくる姿が目に入った。
男は魔法は使えないらしい。剣でねじ伏せることしか狙ってこない。

「娘。」

分かっているとソウレイに目配せをしてユリナは目を閉じた。ふわり、と風もないのに彼女の銀髪が浮き上がる。

目を閉じた途端に、ソウレイが男の前に飛び出した。
飛び出した龍に驚きながら男が刀を振り下ろすが、刀を受け止めた鱗には傷ひとつつかず、ただ闘いに狂う男の刀などものともせずに跳ね返す。

ソウレイが男に向かって、ふぅ、と炎の息を吹き掛けた。一瞬で炎が男を包み込む。視界が、自分が炎の赤色に染め上げられてしまった男は叫び声をあげる。

叫ぶ男を野次馬は見つめ、叫んで、闘いへの飢えを満たす。

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