空色の瞳にキスを。
何度もソウレイが男を炎で包むから、彼の悲鳴はなかなか止まらない。その声は断末魔のようで、原因を作ったのは自分だけれど、ユリナの眉間にしわが寄った。

ユリナはソウレイにこちらの男を任せて、ルグィンを助けにいこうと彼のいる方を振り返る。
けれどルグィンともう一人の男は、ユリナたちのように距離を置いての闘いではなかった。足場を飛び回っての闘いだった。ユリナはルグィンともう一人の男が互いに空中で、また足場で蹴り、蹴られてを繰り返しているのを見守る。

ユリナがルグィンに加勢しても邪魔にしかならないだろう。あの闘い方では、ユリナは『ナナセ』の闘い方を強いられるだろう。それに、彼女は黒猫が強いと知っていた。だから心穏やかに見守ることができた。

唐突に一人が足場に膝をついて、試合が終わった。野次馬の歓声が一際大きくなる。一人立っているのは、彼だ。

「そうか。この勝負ユリナとかいう女とクロネコの勝ちだな。」

「まぁ、そうだろうな。あの女、王女の影武者みたいだし。」

そんな声が聞こえてユリナは内心ほっとする。
ここでも強さは正義らしい。ルグィンとユリナが勝ったなら、そちらが正しいと流れてゆく。
安心して緩んだ口元を、また引き締めて振り返る。

「ソウレイ、もういいよ。」

龍の名を呼ぶと、不服そうに紅い龍が顔を上げた。

「なんじゃ、わしの出番は一人で終わりか。」

「ええ。今日は終わりよ。助けてくれてありがとう、ソウレイ。」

ユリナは穏やかに笑って、また呪文を紡ぎ出す。

「ああ。
娘、またわしを呼べよ。お前は一番わしが動きやすい魔術師なんじゃ。」

ソウレイをもとの場所へと還す呪文を紡ぎながら、ユリナは分かっていると微笑んで頷いた。ソウレイは彼女が呪文をかけているせいで輪郭が薄く、もう半透明な体から向こうが見えた。

突然に龍がひとつ大きな口で吠えた。驚いてユリナは目を瞑った。
きらきら、と紅い粉がユリナに降りかかる。ユリナ以外が、焔の雪のような不思議な光を目にした。

「──わしの幻でそいつが狂わないといいがな。」

ソウレイの声が普段と同じに戻ったことに、ユリナは目を開けた。先程までと同じ調子で笑って頷いた。

「えぇ、そうね。それじゃあ、また。」

思い残すことがなくなったのか、一瞬でソウレイは消えた。龍神が消えたと同時に、ユリナと戦った男にまとわり付いていた炎も消えた。
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