Hurly-Burly 4【完】
誰の理由でもなく、居なくなったんではなく果たす
べきことを見つけたのだと信じたい。
ただ“彼”は旅立つ日に“サヨナラ”とは言わなかったのだから。
「“ ”さんはそんなこと思わないよ。」
だって、すごく優しい人だった。
親友だった兄ちゃんも真君も信頼していた。
だだ甘に甘やかして正直甘やかされた覚えしかない。
「そうだな、ただ、今だって兄ちゃんなんかよりも
上手くひーちゃんを甘やかしてやれるんだろうなって
思うとホントに腹が立つな!」
プリプリ怒る兄ちゃんは喜怒哀楽がハッキリしている。
確かに、きっと“彼”が今この場に居たら甘やかされて
いたに違いないだろう。
あまり表情に感情を出さないあたしの変化にいち早く
気付いて、その理由を意図も簡単に突き止めてしまう。
まるで、探偵みたいなしなやかさで穏やかな人。
ずっと上手でいつだって降参させられていた。
それだけ、酷く可愛がられて大切にされた。
引き止めることもなく、ただ“彼”の幸福を願う
ことしか出来なかった。
だから、居なくなって心にポッカリと穴が空いても
涙を流すことも怒ることもなかった。
どうか、幸せでありますようにと自分を悔いる
ことよりも今まで幸せにしてもらっただけの
幸運をあげたかった。
過去を悔やんであの時引き止めれば良かったなんて
一度も後悔したことはなかった。
「ホント、どこで何やってんだよ。」
次第に慣れてきた暗闇に目が追いついてきた。
ああ、ここはよく星を観察していたな。
兄ちゃんが座る椅子の前には天体望遠鏡があった。
「ひーちゃんを泣かせるヤツは兄ちゃんが絶対に
許してやらないからな。」
「泣いてないのだが?」
「兄ちゃんが言いたいことはそんなことじゃない!」
「いや、兄ちゃん!?」
力む必要性が全く分からないのだが!!
「あの時は“ ”を殴ってやれなかったからな。
帰ってきたら殴ってやろうと思ったのにまだ帰って
来てないんだもんな。」
兄ちゃん、虫も殺せない癖に何を言ってるんだか。
無理して後悔してるのは兄ちゃんの方じゃないか。
“彼”にだって言えなかった理由はあるだろう。
誰にも告げずにあたしだけ最後に会いに来たのだから。