自分の中で
義男は不思議な気分だった。
偶然見かけた新聞に目が止まり、なぜか導かれるように、面接に向かっていた。
義男は平屋作りの木工所の前に立っていた。
事務所のドアを叩くと、中から声が聞こえた。「誰。」
しわがれた年季のかかった声だった。
「あの~面接にうかがった川原ですけど。」
すると薄っぺらいドアが開いた。
年くったじいさんが、義男を睨んでいた。
あまりの迫力に義男は後づさりした。
じいさんは、義男に手招きをして、事務所の中に招き入れた。
事務所は薄暗く埃っぽい空気が充満していた。 義男は咳払いをした。 じいさんは部屋の片隅にあるテーブルに座っていた。
義男は誰に言われるわけでもなく、じいさんの前に座った。
じいさんは義男を睨んでいた。
義男は何を話していいかわからなかった。
「手を見せろ。」
じいさんは言った。 義男は言われるままに、両手を差し出した。
じいさんは凄い力で義男の手をつかんだ。
「痛い。」
義男は声を出してしまった。
じいさんは笑った。 「へなちょこな手だなあー。まったく苦労知らずの手だ。」
義男はまったく何も言い返すことができなかった。
「新聞の求人見てきたんだろう。大体あんな求人勝手に役所が出したんじゃ。」
じいさんは怒っていた。義男は呆気にとられていた。
「わしの名前は篠原だ。」
篠原は江戸時代から続く木工所であった。 まあ百年ぐらい続いていると理解すればいい。 篠原には子供がいなかった。
だから篠原としては、もう自分の代で木工所を閉めようと思っていた。 しかし周りがそれを許さなかった。
篠原の技術を閉ざすことを、惜しむ人間がいた。だから行政に働きかけ求人を出す結果となった。
しかし、篠原はなかなか首を縦に振ることはなかった。
奥さんの説得にやっと篠原は納得した。
篠原は周りの人間に、一つだけ条件をだした。「自分が良いと思わない限り弟子は取らない。」 求人を出すと、不思議と沢山の人間が面接にきた。しかし篠原の納得する結果が得られずにいた。
行政や周りの人間は焦っていた。
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